これは、 恋愛小説の顔を している。 本当にそうかは、 読み終えたあとに、わかる。
人はなぜ、すれ違うのか。
それは相手の性格が悪いからでも、
自分の意志が弱いからでもない。
限られた情報で社会を生き抜くために設計された、人間の脳の仕様によるものだ。私たちは合理的な判断機械ではなく、生存のために最適化されたヒューリスティックの束として、毎日を歩いている。
この物語は、その仕様書を、二人の登場人物の対話を通して読み解こうとする試みである。答えを出すためではない。自分を知り、人に少しだけやさしくなるための、十三の記録──。
定義することで、安心する。
感じることで、理解する。
決して交わらないはずの二人が、十七歳の三年間と、十八年の余白を通して、ほどけない結び目を、ゆっくりと見つめ直していく。論理と感情、構造と接続、そのあいだに揺れる小さな真実を、ひとつずつ拾い集めていく物語。
十三の章。
そのいずれもが、誰かの日常である。
各章はひとつの認知バイアスを軸に、誠と真弓の対話で構成される。順に読んでも、気になる章から開いても構わない。
登場人物
Two who never agree, and yet, never leave.
誠
「定義できないものは、議論できない。だから俺は、まず観察から、始める。」
すべてをノートに記録してきた人。世界はカテゴリでできていて、人もまた、適切な分類のもとで理解できると信じてきた。──少なくとも、ある一人の女子に出会うまでは。感情を捨てたのではない。表現できなかっただけだった。
真弓
「事実は確認できても、感情は、確認できないんだよ。私には、感情のほうが、事実より、大事なんだけどな。」
人と人の間を、橋のように歩いてきた人。論じる前に、まず受けとめる。彼女にとって理解とは、共に揺れることに似ている。──誠の沈黙の意味を、ただ一人、読み取ろうとした人物。書けなかった手紙を、引き出しの奥に、十八年、抱えている。
あとがき。
本作の成り立ちについて。読み終えてから、訪れることをお薦めしたい。
