1-7|所有のバグ|持っているだけで価値があると思い込んでしまう構造

所有という文字と、額に手を当てて考え込む女性のイラスト
目次

1-7-1|所有のバグとは(現象の輪郭)

散らかった部屋で床に座り、服や本、箱に囲まれながら「いつか使うかもしれない」「思い出があって捨てられない」と考え込んでいる人物の様子。
所有のバグ――物が減らせないのではなく、意味を手放せなくなっている状態。

所有のバグ ― 持っていることが目的になり、手放せなくなる状態

「思い出があって捨てられない…」 「いつか使うかもしれないし…」

クローゼットには何年も着ていない服。本棚には読み返すことのない本。引き出しには用途を忘れたケーブル。どれも捨てる理由はあるのに、捨てられない。

持っていることで安心する。手放すと何かを失うような気がする。

しかし、よく考えてみてください。 その「安心」は、本当にそのモノから来ていますか。それとも、「持っている」という状態そのものに依存していますか。

所有のバグとは、持つことが目的になり、本来の役割を見失ってしまう状態です。 割り算で、機能と執着を分けます。

では、式から見ていきましょう。


1-7-2|所有のバグの状態を割り算の計算式で考えてみる

使っていないモノは、道具ではありません。それは所有しているだけでコストを払う「執着(負債)」です。

所有物 ÷ 機能と役割 = 道具 …余り:執着という管理コスト

所有物を「機能と役割」で割ると、「道具」が出ます。

たとえば、包丁は「食材を切る」という機能がある。だから持っている。これは道具です。 パソコンは「仕事をする」という役割がある。だから持っている。これも道具です。

では、3年間開いていない本はどうか。 10年前にもらったが使ったことのないマグカップはどうか。

「機能と役割」で割ろうとすると、割り切れない。 そこに残るのが「執着という管理コスト」です。


1-7-3|所有のバグを割り算で割ったときに浮かびあがる「道具」について

道具とは、目的のために存在するものです。

所有物を「機能と役割」で割ると、驚くほどシンプルになります。 この服は何のために着るのか。この本は何のために読むのか。このモノは何のために使うのか。

目的が明確なものは、道具として残ります。 専門書は資料として残る。仕事の道具は機能として残る。日常的に使うものは役割として残る。

問題は、目的が曖昧なまま所有し続けているものです。

「いつか使うかもしれない」の「いつか」は、大抵来ません。 「もったいない」の正体は、モノへの未練ではなく、手放す決断を避けたいだけです。

道具として機能しているかどうか。 この問いだけで、所有物の大半は仕分けられます。


1-7-4|所有のバグを割り算して余りとして残るものについて

余りとして残るのは「執着という管理コスト」です。

所有には、目に見えないコストがかかっています。

置く場所が要る。管理する手間がかかる。「捨てるかどうか」を考えるたびに脳のリソースが消費される。持っているだけで、静かにコストが発生し続けている。

しかし、ここで注意が必要です。すべての執着が悪いわけではありません。

子どもとの思い出の写真。おばあちゃんからもらった古い1万円札。 これらは「機能と役割」では割り切れません。役目は終えている。でも捨てられない。使えない。

それは執着です。しかし、それを「悪い執着」と断じる必要はありません。 余韻や優雅さを楽しむための所有は、心に余白がある人の贅沢です。

問題になるのは、所有の目的が分散しているときです。

高級な服を着る理由が「承認」であれば、それは服を所有しているのではなく、見栄を購入しています。コレクションを増やす理由が「安心」であれば、それはモノを所有しているのではなく、不安を埋めています。

一つのモノに複数の目的が混在し、どれが本当の理由かわからなくなる。だから捨てられない。

断捨離すべきはモノではなく、執着です。


1-7-5|所有のバグを少し距離を置いて観察してみる

究極の問いがあります。

「無人島に持っていくとしたら、何を持っていきますか?」

この問いに答えようとすると、所有物のほとんどが消えます。 残るのは、本当に自分の生存と目的に必要なものだけ。

所有のバグは、この問いを日常的に忘れているから起きます。

なぜ持つのか。何のために持つのか。 この理由を明確にする方が、実は経済的です。

管理コストが減る。空間が生まれる。選択肢が減ることで、判断が楽になる。

自分の人生を、生きていますか?

モノに囲まれて安心しているとき、そのモノは自分の人生を豊かにしていますか。 それとも、モノに管理されて、モノの人生を生きていませんか。

無意識であれば、所有に支配されます。 しかし、意識すれば、所有を道具に戻すことができます。

「これは道具か、それとも執着か?」

この問いを一つ挟むだけで、所有のバグは少し静かになります。


1-7-6|人間の普遍的な悩みを他にも考えてみる【老いのバグ】

所有のバグは、人間の脳が持つ「バグ」の一つに過ぎません。

次の記事では「老いのバグ」を取り上げます。 変化を「時間の物差し」で評価してしまう構造──「あの頃に戻りたい」、あの感覚の正体です。

1-8|老いのバグ|変化を「時間の物差し」で評価してしまう構造


1-7-7|その生きづらさ、構造につき。【全体を俯瞰する】

このシリーズ「その生きづらさ、構造につき。」では、全9つのバグを割り算で分解していきます。

すべてのバグに共通しているのは、無意識なら支配され、意識すれば防げるということ。

余りは消えなくていい。 ただ、それが余りだと知っているだけで、十分です。

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