だます
誠と真弓が、向かい合って座っている。
二人のあいだに、開いたノートが、一冊。
人は、自分につく嘘を、最も信じる。
誰かに嘘をつかれたら、人は、それを見抜こうとする。表情を観察する。話の矛盾を探す。声のトーンの変化を聞く。他人の嘘には、人は、警戒する。
でも、自分につく嘘には、警戒しない。
「私は、本当は、こう感じている」と、自分の心が言っているのに、頭は、それを別の言葉に翻訳する。「いや、本当は、そうじゃない」「これは、たぶん、こういう意味だ」「私は、そんなに弱くない」
翻訳されたあとの言葉が、自分の感情として、固定される。本当の感情は、翻訳の下に、押し込められる。
これが、自分への嘘の、構造だ。
なぜ、人は、自分にだけ、こんなに簡単に、嘘をつくのか。
それは、自分の感情と、自分の行動が、矛盾したときに、どちらかを変えなければ、心が苦しいからだ。感情を変えるのは、難しい。だから、感情のほうの「解釈」を変える。解釈を変えれば、行動と矛盾しなくなる。矛盾しなくなれば、楽になる。
楽になることと引き換えに、本当の感情が、見えなくなる。
真弓は、その仕組みの中に、長く、いた。
誠は、その仕組みを、知らなかった。
知らないまま、誠も、その仕組みに、足を踏み入れることになる。
それは、十一月のある放課後の、たった一回の問いから、始まった。
真弓の問いだった。
誠の沈黙だった。
二人とも、その瞬間まで、認めてこなかったものに、初めて、触れた瞬間だった。
十一月の中頃、放課後、真弓は、誠の教室に、行った。
第6話で、真弓は、誠の定位置を「同じ学校にいるが、共有はしない人」と決めた。第7話で、真弓は、誠への期待の根の深さを、もう一度、確認した。
その上で、真弓は、誠の教室に、行った。
行った理由を、真弓自身、よく分からなかった。
ただ、誠と、もう一度、ちゃんと、話したかった。
「ちゃんと話す」が、何を意味するのか、真弓には、明確には、分からなかった。
分からないまま、真弓は、誠の教室の前に、立っていた。
誠は、いつものように、自分の席で、ノートを広げていた。
真弓は、誠の席に、近づいた。
誠は、真弓に気づいて、視線を上げた。
「珍しいな」と誠は言った。
「うん。話したいことがあって」と真弓は答えた。
誠は、ペンを置いた。真弓のために、向かいの席を、空けた。
真弓は、その向かいの席に、座った。
座って、しばらく、何も言わなかった。
誠も、急かさなかった。
夕日が、教室の机に、長い影を落としていた。
真弓は、自分のリュックから、白い封筒を、取り出した。
封筒を、誠の前の机に、置いた。
「これ、何だ」と誠は聞いた。
「手紙」と真弓は答えた。
「読まないで」と真弓は付け加えた。
「読まないなら、なぜ、置く」と誠は聞いた。
「私が言いたいことが、書いてある。でも、読まれたら、困る」と真弓は答えた。
「意味が分からない」と誠は言った。
「私にも、分からない」と真弓は答えた。
誠は、白い封筒を、見ていた。
真弓も、同じ封筒を、見ていた。
二人とも、しばらく、黙っていた。
そして、真弓は、口を開いた。
真弓は、誠の二度目の「今は、答えられない」を、聞いた。
聞いた瞬間、真弓の中で、ある音が、聞こえた気がした。
パキッ、と何かが、割れる音だった。
その音は、外側からではなく、真弓の中の、深いところから、聞こえた。
真弓は、その音を、聞き取った。
そして、思った。
――今、何かが、割れた。
割れたのが何なのか、真弓には、明確には、分からなかった。
でも、割れたという事実は、はっきりと、感じられた。
真弓は、誠の机の上の、白い封筒を、見つめた。
そして、封筒に、手を伸ばした。
「これ、持って帰る」と真弓は言った。
「読まれたら困るんだろう」と誠は言った。
「もう、読まれなくても、いい」と真弓は答えた。
「もう、読まれることが、あなたが、私のことを、分かってくれることを意味してたから。でも、分かってもらえないことが、もう、はっきりしたから、読まれる必要も、ない」
真弓は、そう言って、封筒を、リュックに戻した。
誠は、何も、言わなかった。
真弓は、リュックを背負って、立ち上がった。
「ありがとうね、答えてくれて」と真弓は言った。
「答えてないだろう」と誠は言った。
「答えなかったことが、答えだから」と真弓は言った。
誠は、その言葉に、何も、返せなかった。
真弓は、教室を出た。
出るときに、振り返らなかった。
誠は、机の上に転がしたペンを、見ていた。
夕日は、もう、ほとんど、教室から消えていた。
真弓は、封筒を開けて、中の便箋を、取り出している。
書いてあった文字を、自分でもう一度、読んでいる。
その夜、真弓は、自分の部屋で、白い封筒を、開けた。
中には、便箋が、一枚、入っていた。
真弓は、その便箋を、自分でもう一度、読んだ。
書いてあった文字は、こうだった。
「あなたのことが、好きでした」
「過去形で書くのは、もう、終わった気持ちだからじゃない」
「これから先も、たぶん、好きでい続けるけど、未来形で書くのは、なんとなく、怖かったから」
「でも、これは、伝える必要のない気持ちだった、と今、思いました」
「あなたは、私のことを、たぶん、ずっと、ただのクラスメイトの一人として、見ていた」
「それは、悪いことじゃない。あなたは、ただ、あなたなだけだから」
「だから、この気持ちは、私の中だけに、しまっておきます」
「卒業まで、一緒の学校にいるけど、もう、深く話すことは、しないかもしれません」
「でも、最後に、ちゃんと、お別れの挨拶は、したいから」
「最後の日に、また、声をかけさせてください」
「ありがとう。これまでの、いろんな話、ぜんぶ」
真弓は、自分の手紙を、読み終わった。
読み終わって、便箋を、封筒に、戻した。
戻して、机の引き出しに、しまった。
しまって、しばらく、机の前に座っていた。
真弓は、思った。
――この手紙、渡せなかった。
渡せなかった理由は、誠の「今は、答えられない」だった。
誠が、はっきりと「お前のことは、ただのクラスメイトだ」と言ってくれていたら、真弓は、この手紙を、渡していた。渡して、終わらせていた。それで、すっきりしていた。
でも、誠は、答えなかった。
答えないことで、誠は、真弓の手紙を、宙ぶらりんに、した。
宙ぶらりんになった気持ちは、行き場を、失った。
行き場を失った気持ちは、真弓の中で、また、再生され続けることになる。
真弓は、誠が「答えなかった」ことを、頭の中で、何度か再生してみた。
再生するうちに、真弓の中で、ある解釈が、立ち上がった。
「答えなかったのは、答えられない感情があるから、なのかもしれない」
「もしかしたら、誠は、私のことを、何かしら、感じてくれているのかもしれない」
「だから、答えられなかったのかもしれない」
真弓は、その解釈を、自分の中で、しばらく、転がした。
転がしているうちに、その解釈は、希望のような、温かさを持ち始めた。
真弓は、その温かさを、感じた。
感じてから、真弓は、自分にこう言った。
――いや、これは、違う。
これは、真弓が、自分に、嘘をついている。
誠は、感情がないから、答えなかった。それが、本当のことだ。誠は、ずっと前から、自分に対して、感情を、持っていなかった。だから、答えられなかった。これが、事実だ。
でも、その事実を、認めるのは、痛い。
痛いから、別の解釈で、誤魔化したくなる。
「答えられない感情があるのかもしれない」という解釈は、痛みを和らげる、嘘だった。
真弓は、その嘘に、すがろうとしていた。
でも、すがってはいけないと、自分に言い聞かせた。
すがれば、また、期待が生まれる。期待が生まれれば、また、傷つく。
真弓は、もう、傷つきたくなかった。
真弓は、自分への嘘を、自分で、剥がした。
剥がしたら、本当の感情が、出てきた。
本当の感情は、こうだった。
「私は、誠に、最後まで、見てもらえなかった」
「これは、誰のせいでもなく、ただ、そういう構造だっただけ」
「悲しいけど、これが、現実だ」
真弓は、その本当の感情を、しばらく、抱えていた。
抱えていると、涙が、出てきた。
真弓は、声を出さずに、泣いた。
泣くことは、必要だった。
泣くことで、真弓は、自分への嘘を、剥がした自分を、確認した。
剥がした自分は、痛かった。
でも、嘘で誤魔化していた自分よりは、本物だった。
真弓は、本物の自分のままで、その夜、眠った。
眠る前に、真弓は、決めた。
もう、誠と、深く話さない。
挨拶は、するけど、感情は、見せない。
これが、自分を守る、最後の方法だった。
失望値、7。
でも、その7は、もう、悲しさだけではなかった。
その7には、真弓の、自分への誠実さが、混じっていた。
自分に嘘をつかない、という誠実さは、これから、真弓の中で、ゆっくりと、育っていく。
育ったその誠実さは、十八年後、真弓の人生を、別の場所に、連れていくことになる。
でも、それは、ずっと先の話だった。
同じ夜、誠は、自分の部屋で、ノートを開いていた。
ノートに、誠は、こう書いた。
「真弓に、感情について聞かれた。俺は、答えられなかった」
「なぜ、答えられなかったのか」
「分析が、終わっていなかったから」
「では、なぜ、分析が終わっていなかったのか」
誠は、その問いに、答えを書こうとした。
書こうとして、ペンが、止まった。
誠は、自分の中の、真弓に対する感情の項目を、開こうとした。
でも、そのフォルダが、見つからなかった。
誠の脳内データベースに、「真弓に対する感情」というフォルダは、存在していなかった。
存在していないものを、答えることは、できなかった。
これが、誠の「答えられない」の、表面的な理由だった。
でも、誠の中で、ある違和感が、立ち上がっていた。
「真弓に対する感情のフォルダが、ない」ということは、本当に、感情が、ないことを意味するのだろうか。
もしかしたら、感情は、あるけれど、それを格納するフォルダを、自分が、用意していなかっただけ、かもしれない。
誠は、その可能性を、初めて、認識した。
認識した瞬間、誠の中で、何かが、動いた。
動いた何かは、誠が、これまで、感じたことのない、種類のものだった。
誠は、その何かに、名前を、つけようとした。
つけようとして、つけられなかった。
誠の脳内データベースには、その何かを、分類するためのカテゴリも、なかった。
新しいカテゴリを、作るべきか、誠は、迷った。
迷った末に、作らないことにした。
作ると、その何かが、確定する。確定すると、まずい。
「まずい」の正体を、誠は、まだ、知らなかった。
でも、確定させてはいけない、ということは、本能的に、感じていた。
誠は、その何かを、未確定のまま、放置することにした。
放置するために、誠は、自分にこう言った。
「これは、ただの違和感だ」
「気のせいだ」
「分析する必要は、ない」
誠は、その何かを、無視できる枠の中に、押し込めた。
押し込めた瞬間、誠の中で、軽い、安堵が、訪れた。
安堵が訪れたあとで、誠は、ノートに、こう書いた。
「真弓に対する感情は、特になし」
書いて、誠は、ノートを閉じた。
これが、誠が、自分についた、最初の、はっきりとした嘘だった。
嘘をついている、という自覚は、誠には、なかった。
自覚がないから、嘘は、誠の中で、事実として、固まっていった。
固まっていく嘘は、誠の中で、十八年、訂正されないことになる。
訂正されるのは、ずっとあと、ノートを書き直すときだった。
その時、誠は、こう書き直すことになる。
「真弓に対する感情は、確かに、あった。あったが、認めたくなかった。認めると、自分の構造が、崩れるからだった。だから、ないことにした。ないことにすることで、俺は、自分の構造を、守った。守ったが、真弓を、失った」
でも、それは、ずっと先の話だった。
誠は、校門の前で、しばらく、動かなかった。
真弓の「分かりやすかったよ」という言葉が、誠の中で、引っかかっていた。
誠は、自分の中で、自分の答えを、何度か、再生してみた。
「俺の感情は、特に、ないという結論になった」
この答えは、誠にとって、論理的だった。誠の脳内データベースには、真弓に対する感情のフォルダが、なかった。だから、感情は、特にない。これは、整合性のある結論だった。
でも、その結論を、口に出した瞬間、誠は、自分の中で、何かが、ねじれるのを、感じた。
ねじれた何かは、誠の中で、認識されないまま、保管された。
保管された何かは、夜になると、勝手に、再生された。
誠は、夜、眠れなかった。
眠れない、という現象を、誠は、第6話の文化祭の夜に、初めて経験していた。
第8話で、誠は、二度目の不眠を、経験することになる。
誠は、それを、ノートに書こうとして、また、やめた。
書くと、確定する。確定すると、まずい。
誠の中で、「まずい」という感覚は、どんどん、強くなっていた。
でも、「まずい」の正体は、まだ、誠には、見えていなかった。
見えていないまま、誠は、夜を、過ごした。
誠の傷の蓄積、3件目になっていた。
誠自身は、それを、まだ、認識していなかった。
新しいページに、誠が、ある一行を書いて、消した跡が残っている。
消した跡は、消されているのに、まだ、読める。
十二月の初め、誠は、自分のノートを開いた。
新しいページに、誠は、こう書いた。
「真弓に、何かを、伝えたかったのかもしれない」
書いて、誠は、その文字を、見つめた。
見つめてから、消しゴムで、消した。
消したが、消した跡が、ノートに、薄く残った。
誠は、その消した跡を、しばらく、見つめた。
消した跡は、消されているのに、まだ、読めた。
誠は、その「まだ読める」という事実に、軽い、苛立ちを覚えた。
苛立ちは、誠にとって、ほとんど経験のない感情だった。
誠は、ペンを置いて、自分の手を、見た。
自分の手は、ペンを、握りしめていた。
誠は、自分が、無意識に、ペンを強く握りしめていたことに、初めて気づいた。
気づいてから、誠は、ペンを、机の上に、ゆっくりと置いた。
ペンを置いてから、誠は、もう一度、消した跡を、見つめた。
「真弓に、何かを、伝えたかったのかもしれない」
書こうとして、書けなかった。書いて、消した。消したが、消えなかった。
これは、何を意味するのだろう、と誠は、自分に問いかけた。
問いかけた答えは、出なかった。
出ないことに、誠は、もう、慣れ始めていた。
慣れ始めている、という事実が、誠にとっては、新しい、不安だった。
誠は、ノートを閉じた。
閉じても、消した跡は、ノートの中に、残っていた。
残っていることを、誠は、知っていた。
知っていながら、見ないことに、決めた。
これも、自分への、嘘だった。
誠は、嘘をついていることに、気づいていなかった。
誠の中には、感情があった。それは、第6話の文化祭の夜から、第8話の真弓の問いまで、確実に、育っていた。
でも、誠の構造の中には、感情を格納するフォルダがなかった。フォルダがないということは、感情の容量が、0ということだ。
感情がいくらあっても、それを格納する構造が0なら、結果は0だった。
誠は、自分に「感情は、特にない」という答えを書いた。これは、構造から見れば、正しい答えだった。フォルダがないのだから、感情は、認識されない。認識されないものは、ないものとして、扱われる。
でも、本当は、感情はあった。構造の外に、漏れていた。漏れたものが、夜の不眠になった。漏れたものが、消した跡になった。漏れたものが、ペンを強く握りしめる手になった。
構造の中に入りきらなかった感情は、消えなかった。身体に、漏れ出た。
誠は、それを、認識しなかった。認識すると、構造が、崩れる。崩れると、まずい。
だから、誠は、自分に嘘をついた。嘘は、真弓にだけついたものではなく、自分自身に、ついたものだった。
自分への嘘は、最も、見抜きにくい。なぜなら、自分は、嘘を、信じてしまうからだ。
誠は、十八年、自分の嘘を、信じ続けることになる。信じることで、誠は、自分の構造を、守った。守った代わりに、真弓を、失った。
真弓も、自分に嘘をつこうとして、踏みとどまった。踏みとどまった真弓は、痛みを抱えながら、本物のままで、生きていく。嘘をつかなかった真弓は、嘘をついた誠より、ずっと、自分に近い場所で、生きていく。
誰のせいでもない。ただ、二人の選択が、別れただけだった。その別れは、第8話の、ある日の放課後に、決まった。
二人とも、その日のことを、十八年、忘れない。忘れられない、ということが、二人の関係の、最も、本質的な姿だった。
誠の机の上のノートは、消した跡のあるページが、開いたままだった。
真弓は、その夜、引き出しの中の白い封筒に、軽く触れた。
触れて、また、引き出しを閉じた。
閉じてから、真弓は、自分の手を、見た。
自分の手は、震えていなかった。
第3話の夜、進路調査票を書いたとき、真弓の手は、震えていた。
でも、第8話の夜、真弓の手は、震えていなかった。
真弓は、その違いに、自分でも、驚いた。
震えなくなった理由を、真弓は、考えた。
考えた末に、答えは、こう出た。
――もう、決まったから。
誠との関係は、もう、決まった。
決まったら、迷わなくていい。迷わないなら、震えない。
震えないことは、楽だった。
楽だが、それは、悲しい楽だった。
真弓は、その悲しい楽を、自分の中に、迎え入れた。
迎え入れた瞬間、真弓は、子どもから、少しだけ、大人になった。
大人になることは、嬉しいことだろうか。
真弓には、分からなかった。
分からないまま、真弓は、その夜、眠った。
自分への嘘について、もう少し、書いておく。
自分への嘘は、悪いものではない。
人間が、辛い現実に直面したとき、自分に嘘をつくことで、その辛さを、和らげる。これは、心を守るための、防衛機能だ。誰もが、無意識に、これをやっている。
でも、嘘を、長く信じ続けると、副作用が、出る。
本当の感情が、見えなくなる。
見えなくなった感情は、消えるわけではない。心の奥に、押し込められたまま、残る。
残った感情は、ふとした瞬間に、身体に、漏れ出る。
不眠になる。食欲がなくなる。頭が痛くなる。意味もなく、涙が出る。
これらは、すべて、押し込められた感情の、漏れ出る音だ。
誠は、自分の感情を、押し込めた。
押し込められた感情は、誠の身体から、漏れ出始めた。
でも、誠は、それを、感情の漏れだと、認識しなかった。
「ただの違和感」「気のせい」「分析する必要はない」と、誠は、自分に説明した。
説明した瞬間、誠は、また、自分に嘘をついた。
嘘の上に、嘘を、重ねた。
嘘を重ねた結果、誠の構造は、安定した。
でも、安定した構造の下で、本当の感情は、ずっと、漏れ続けた。
真弓は、誠と、別の選択をした。
真弓も、最初は、自分に嘘をつこうとした。「誠は、感情があるから、答えられなかったのかもしれない」と、自分に言った。
でも、真弓は、その嘘を、自分で、剥がした。
剥がして、本当の感情と、向き合った。
向き合うことは、痛かった。
でも、嘘で誤魔化すよりは、本物だった。
あなたが、もし今、何かに対して、自分に嘘をついているなら、その嘘を、責めなくていい。嘘は、心を守るための、必要な機能だ。
でも、嘘の下に、本当の感情が、押し込められていることだけは、覚えていてほしい。
押し込められた感情は、消えない。
身体に、漏れ出る。
漏れ出たものを、無視し続けると、いつか、身体が、壊れる。
壊れる前に、嘘を、剥がす勇気を、持ってほしい。
剥がしたあとの本当の感情は、痛い。でも、痛みは、本物だ。
本物の痛みは、いつか、薄れる。
偽物の安心は、ずっと、続く。続いた末に、人を、深いところで、壊す。
真弓は、本物の痛みを、選んだ。
誠は、偽物の安心を、選んだ。
二人の選択は、十八年後、まったく違う場所に、二人を、連れていくことになる。
あなたには、本物の痛みを、選んでほしい。
これが、真弓から、十八年後のあなたへの、五つ目のメッセージだ。
この記事では、以下の概念を参考にした。
- ・認知的不協和 (Cognitive Dissonance)
- ・自己奉仕バイアス (Self-Serving Bias)


